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くるまきのいたずら狸

くるまきのいたずら狸 え/辻田滋子
 昔から、本川内[ほんがわち]、平木場[ひらこば]、三根[みね]の人達は、川平[かわびら]へ抜ける細い山道を通って町へ行ったり来たりしていました。その山道の両側には、栗の大木が続き、秋も深まるとそれこそ道一杯、栗の実が撒かれたように落ちていました。それで今でも、その山道は、『くるまき』と呼ばれています。
 くるまきには、狸の親子が住んでいて、炭焼きに来ている爺さんの寝ている木の枝を揺ったり、薪を取りに来た子供を見つけると、しっぽで竹を「コーン、コーン」と、たたいておどかしては喜んでいました。
 村人達は、捕えようと山狩りをしましたが、狸は悪賢くてどうしても捕えることができませんでした。いつのまにか村人達は、「くるまきのいたずら狸」と呼ぶようになりました。
 平木場に住む孫七[まごしち]さんは、小心者で、村でも評判のお人好しでした。これまでも狸に騙されて、肥だめを風呂と思って入っていたり、小川を広い道と思って平気で歩いていたり……。
 何度も村人の笑いの種となっていました。そんな訳でお嫁さんもなかなか来てくれず、年老いた両親に淋しい思いをさせていました。
 春浅いある日、孫七さんは、町に仕事で出かけ、帰りはすっかり暗くなってしまいました。その日は仕事もうまくすみ、久し振りにお酒を飲んで、気分よく帰っていました。
 くるまきの中ほどまで来ると、提灯が「すうっ」と消えてしまいました。こんないたずらをするのは狸にきまっています。今までの孫七さんなら、これくらいのことでも怖くてどうしようもなかったのに、今日はお酒のせいか、ちっとも怖くありません。逆に気が大きくなって「今まで俺を騙してきた狸を捕えてやろう」と思い、木の切株に座ってキセルに煙草を詰め、ゆっくり吸い始めました。そして、じっと狸の来るのを待っていました。
 一方、狸の親子は孫七さんを三度も騙して喜んでいましたから、今日は、子狸だけで人を騙させるいい機会だと思いました。この子狸は、臆病でなかなか母狸から離れませんでしたが、父狸からきつく叱られ、びくびくしながら孫七さんの後の方から近づいて行きました。
 そのころ孫七さんは、お酒の酔いも少し覚め、だんだん怖くなってきて、落ち着かない気持で座っていました。その後ろまで来た子狸は、父狸から教わったとおり、一気に孫七さんに目隠しをしました。びっくりした孫七さんは、とっさに子狸の手をつかんだものの、そのまま気を失ってしまいました。
 しばらくして気を取り戻すと、手に捕えている子狸も気を失っていたので怖がりの孫七さんも「ほっ」と、小さなため息をつきました。それから、子狸を近くにあったカズラでしばり、肩に担いで家に帰ることにしました。
 親狸は、その様子を心配そうに見ていましたが、孫七さんが歩き始めるとそっと後からついて行き、孫七さんが家に着くと、親狸は近くの林に隠れ、子狸をどうして助けようかとなにやら相談を始めました。
 孫七さんは、子狸をしばったまま土間に置いて、すぐに寝てしまいました。寝てからどれくらいたったでしょうか。孫七さんの夢の中に親狸が現れて、
「どうか子狸を返して下さい。返してくれたら、何でも望みをかなえてあげます。」
 と泣いて頼むのでした。人の好い孫七さんは、親狸の姿を見て、
「今から村人にいたずらをしないことと、自分にお嫁さんが来るようにしてくれれば子狸は返してやる。」
 と、返事をしたところで目が覚めて、不思議な気持ちで土間へ行くと、子狸が元気なく孫七さんの方を見ました。それを見た孫七さんは、夢を思い出し、子狸を外に連れて行き、カズラを解いて放してやりました。
 それからというもの孫七さんは、お嫁さんが来るのを楽しみに、いっそう精を出して働いていました。
 やがて秋も深まり、道一杯栗の実が落ちる頃、となり村から、それはかわいらしいお嫁さんが来たそうです。
 今では、くるまきで狸に騙されたという話も聞かなくなりました。


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