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和三郎伝説

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 むかし昔のこと。堂崎と塩床の間の険しい山に一匹の毛並みの美しい牝狐が住んでいた。あるとき、遠くまで出歩いた牝狐は長崎の花街丸山に迷い込み、ひもじさのあまり“和三郎亭”という女郎屋の流しの下で残飯をあさっているとどうっと熱湯が流れて来て、避けそこねて大火傷をおってしまった。
 怒った牝狐は復讐を思い立ち、傷の癒えるのを待って、丸山へ出掛け、女郎屋の亭主“和三郎”は芸事が大好きとわかり、早速芸者に化け、言葉巧みに和三郎を誘いだして、棲み家に連れ帰り、酒や肴に三味線、太鼓、笛に踊りに歌や色仕掛け、和三郎さんは家や仕事のこともすっかり忘れて放蕩三昧の日々を送っていた。
 家族は行方知れずとなった“和三郎”を探していると、長与の塩床方面にいるらしいとの噂があり、来て見ると、険しい道もない山中で笛や三味線の音がかすかに聞こえるが、寄り付くすべもなく、舟を多数雇い山裾の岸辺で笛や三味線をかき鳴らし「和三郎さんやーい」「和三郎ー」と声を限りに呼びかけると、牝狐は岩穴の奥深く閉じ込めた。
 探しに来た一行はとうとう探しだせないで帰ったが、声を聞いて、すっかり里心のついた和三郎は食欲も無くなり、日に日にやせ細ったので、さすがの牝狐も和三郎が可哀想になり、丸山へ送り返したと云う。それから、この岩を和三郎岩と呼ぶようになり、今でも、この岩付近には狐が棲んでいる。
 ※塩床地区では、昔は流しにお湯をながすときは「お湯ば、流すぞう」と声をかけてから流したという。
◆『長与ぶらり散歩』 近藤哲夫著 より

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